新潟地方裁判所 昭和38年(行)1号 判決 1963年12月17日
原告 原田清一郎
被告 新潟税務署長 外一名
訴訟代理人 真鍋薫 外四名
主文
一、被告関東信越国税局長に対する請求を棄却する。
二、被告新潟税務署長に対する訴を却下する。
三、訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
一、まず被告局長に対する訴につき判断する。
原告は「再調査請求期間を経過した場合にも訴願法第八条第三項によつて恕宥すべき理由(ないしは正当事由)の存する場合には、実体調査をなすべく、単にその請求提起期間一カ月を徒過しているとの一事をとらえて被告局長が原告の審査請求を棄却したのは違法である。」旨主張する。しかし、所得税法第五〇条は再調査請求の目的となる処分に関する事件について訴願法の規定を適用しない旨定めている。従つて訴願法の適用があることを前提とする右主張は失当である。
なお、所得税法には訴願法第八条第三項に相当する規定はないが、交通その地の状況によりやむを得ない事由が存する場合に於ては再調査請求者の申請により期日を指定し、再調査請求期限の延期をすることができる(所得税法第四八条第二項、第二五条の三、同法施行規則第二一条第二項第三項。なお昭和三七年四月一日施行の国税通則法によつても、この結論は同趣号である。)けれども、その手続がとられた形跡は認められない。のみならず、原告の具体的主張は「原告は再調査請求期間が一カ月間と限定されていたことを知らなかつた。」というのであつて、いわゆる法の不知にすぎず、これをもつて右「やむを得ない事由が存する場合」に該当するとはいえないから、右法条を斟酌してみても、原告の主張は失当である。
従つて、被告局長に対する請求は棄却をまぬかれない。
二、被告署長に対する訴につき検討する。
原告は、自己のなした修正申告及び被告署長のなした更正処分の各無効確認を求めているけれども、いずれもその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴(例えば、税金を未納の場合は当該租税債務不存在確認の訴によるとか、既に納付済の場合には当該過払金の返還請求の訴等)によつて充分その目的を達し得るので、行政事件訴訟法第三六条により不適法な訴というほかはない。
ところで、本件に於ける修正申告は行政庁の処分ではないけれども、しかし原告は当初から別表記載の如き期限後の確定申告をしている(この点は当事者間に争がない。)ために所得税額の更正を請求できなくなつていた関係から、これを前提になされた原告の修正申告によつて直ちに(徴税機関の賦課をまつことなく)その申告どおりの所得税額が法律の規定によつて確定される効力を与えられている(本件はその後に至り更正処分がなされているが、証人塩田欣弥の証言によれば、これは原告より被告署長に対し職権発動を促す申立があり、被告署長がこれを相当と認めて別表記載どおり減額更正処分をしたにすぎないと認められる。)従つてこのような効力を有する修正申告の無効確認を求める訴に於ては、その修正申告をもつて行政庁の処分と同視できるので、行政事件訴訟法第三六条を適用し得るものと解する。
従つて被告署長に対する訴は本案の判断を加えるまでもなく同法条により不適法として却下をまぬかれない。
(なお、原告は「被告署長のなした更正処分が憲法第三九条に違反する。」旨主張するけれども、課税につき同法条の適用がないのみならず、原告の期限後確定申告に基いて納税すべき所得税額がその前提となつた譲渡価格に比較し、著しく低額であつたことは原告本人尋問の結果によつてすら明らかであり、他面証人小林哲、山口虎男、塩田欣弥の各証言によれば原告主張の修正申告及び右更正処分がいずれも正しい課税になつていると認められるので、右更正処分をもつて憲法第三九条に違反するものとはいえない。)
三、よつて原告の本訴のうち、被告局長に対する請求を棄却し、被告署長に対する訴を却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 吉井省己 竜前三郎 渋川満)
別表<省略>